仮想通貨の「心臓部」標準争い 国際規格巡り攻防 17カ国が交渉

引用元:【日経〜仮想通貨の「心臓部」標準争い 国際規格巡り各国交渉へ

 仮想通貨ビットコインや納税、カルテ、処方箋――。さまざまな分野への応用が期待される未来の中核技術を巡って3日、日米欧など各国による「標準」争いの幕が上がった。世界中で様々な電子サービスの心臓部になる可能性が高く、その標準作りは自国産業を背負った経済外交そのものだ。ビットコイン大国、中国の出方からも目が離せない。

 中国「技術のあるべき機能と役割について提案したい」

 米国「議論のリーダーを任せてもらいたい」

 オーストラリアで開かれた国際標準化機構(ISO)の国際交渉に先立ち、交渉参加国は3月中旬から次々と意見表明していた。交渉するのは「ブロックチェーン」と呼ばれる技術の標準をどうするのかということだ。

 用語だけ聞くと取っつきにくいが、要するにネット空間に広がる巨大な「電子台帳」に、取引の参加者全員で取引記録を書き込んでいくイメージだ。例えばビットコインの取引に関わる人すべてが同じ電子台帳を持ち、売買の履歴がその都度更新される。誰か1人の台帳が改ざんされても、みんなで照合することで不正を見抜くことができる。決済や送金はもちろん土地の登記、寄付、さらに投票といった行政サービスにも活用することが期待されているが、技術には20近い流派があり、基準が乱立したままだ。

 混沌とした状況の中、主導権を握ろうという動きが表面化したのは昨年4月だ。豪州が何の前触れもなく、ISOに対して基準作りを提案した。提案書に引用されたのは英国が昨年1月にまとめたリポート。「英連邦系の国家が手を組んで次世代金融の覇権を握ろうとしている」。関係者は騒然となった。

 正式な交渉参加国は17カ国で、日米中露のほか欧州から独仏やフィンランドなども加わる。オブザーバーも17カ国にのぼり、ISOでは近年最大級の交渉になる。

 いわば数ある流派の「チャンピオン」を決める交渉だ。ビットコインの急速な台頭で、置いてけぼりに危機感を強める国際決済システム運用の国際銀行間通信協会(SWIFT)もオブザーバー参加し、さや当てが始まっている。

 豪の提案後、すぐさま動いたのは米国だ。欧州勢の存在感が大きいISOではなく、米の影響力が強い国際電気標準会議(IEC)とISOの合同会議に急きょ、同様の提案を持ち込んだ。

 豪交渉で日本代表団の事務局を務める日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の郡司哲也主任研究員は「標準の提案をすぐにするのは無理だ。米は準備をしていたものの豪に先を越されたのだろう」と真相を読む。

 もともと情報技術(IT)分野の標準はISOではなくIECで決めるのが慣例だ。その意味では米のやり方は筋が通っていたが国際競争では先手必勝。半年近い議論の末、米提案は否決された。

 先を越されたのは日本も同じだ。経済産業省国際電気標準課の小出啓介課長補佐は「日本でも業界団体と1年かけて、どこに提案すべきか議論してきたところだった」と明かす。ただ日本は米のように対抗措置は取らず、ISOの交渉入りに賛同した。英連邦勢に正面から挑むのではなく、女房役として振る舞う勝ち馬作戦だ。

 流派ごとに性能に大きなばらつきがあるブロックチェーン。その優劣を見極めるための「性能評価」の手法を経産省と日立製作所や日本IBM、NECなどで共同で作り、日本勢に有利な土俵を作れるよう議論を誘導する狙いだ。

 見逃せないのは仮想通貨の利用者が世界で突出して多い中国の動向だ。ISO会長も実は中国鞍山鉄鋼集団の張暁剛氏で、近年ISOでの発言力は高まっている。ブロックチェーンの国際標準にも無関心なはずがなく、英連邦勢との連携もあり得るとの見方がある。増島雅和弁護士は「中国はインターネットで徹底した国家管理に成功した経験も踏まえ、規格作りで主導権を握ろうとするのではないか」とみる。

 3日から始まったISOの専門家委員会では、慣例にのっとり豪が議長を務める。今後は、議論の柱や技術の用途ごとに小委員会も設置される見通しで、新たなポスト獲得を目指し各国の綱引きが起きそうだ。

 標準の策定交渉は議論が始まってから決着まで、およそ3年に及ぶマラソン交渉だ。対中警戒感も強まる中でトランプ政権への移行でいまは動きがやや鈍い米当局のエンジンがかかったらどう出てくるのか。本命なき争いの行方は全く先が読めない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です